熊本県南部、球磨川沿いの城下町・人吉に、昭和9年(1934年)に建てられた木造の温泉旅館です。2012年に国の登録有形文化財になり、廊下のガラス窓や高い天井が創業時のまま残っています。私たちは2025年9月、宮崎側からレンタカーで人吉に入り、「スタンダード会席プラン」(人気No.1のプラン)で土曜日に1泊しました。建物の風情も食事のボリュームも印象に残りましたが、いちばんは湯。pH8.16の弱アルカリ性で、浸かるととろみを感じる100%源泉かけ流しの温泉が、大浴場2つ・露天・家族湯の4種類で楽しめます。この宿は、まず湯で選ぶ価値があります。

チェックインまで — 宮崎側からループ橋を越えて、人吉駅ときじ料理に寄り道
この日は宮崎県の道の駅えびのを出て、えびのループ橋と人吉ループ橋を越えて熊本県へ入りました。山あいの道が続き、ループ橋を降りたあとに見上げると、走っているときには分からなかった橋の全貌が見えます。
人吉の街に着いてまず寄ったのが人吉駅。明治41年開業の木造駅舎で、駅前広場には人吉城をかたどった「からくり時計」があり、毎正時に音楽とともに相良の殿様の人形が動きます。JR肥薩線の八代〜人吉間は令和2年7月豪雨の被害で運休が続いていて、私たちが訪ねた日も人吉駅に発着する列車はありませんでした。それでも駅舎は当時の姿のまま、訪れる人を迎えてくれます。
昼食は、球磨川の支流・胸川沿いのきじ料理店「きじや」で「きじ炭焼きコース」(3,300円)。予定していた店が休みで急きょ見つけた店でしたが、きじ刺しと炭火で自分で焼くきじ肉、味の染みたきじめしが揃って、この旅でいちばん印象に残った昼食になりました。予約なしで入れましたが、事前予約がおすすめです。そのあと道の駅人吉に寄って、宿へ向かいました。
駐車場は道路を挟んだ宿の向かいで、無料・予約不要・約30台。カーナビは公式サイトの案内どおり青井阿蘇神社を目的地にすると迷いません。チェックインは15時から、チェックアウトは10時です。

玄関を入るとロビーがあり、ソファと柱時計、太い木の梁が見えます。古さからくる風情はそのままに、館内はとても清潔で、丁寧に手入れされてきた宿だと分かります。廊下はガラス窓が中庭に面していて、昼は光が入り、夜は壁の灯りがともります。館内には人吉にまつわる絵を描いた大きなステンドグラスもあり、夜と朝で印象が変わります。



部屋 — 8畳に次の間3畳の和室。広縁の窓の外は球磨川
泊まったのは本館の和室で、8畳の主室に3畳の次の間が付く造りです。部屋に入るとスリッパを脱ぐ玄関スペースがあり、その脇に小さな洗面所とトイレ。風呂は付いていません。正面が主室と広縁で、座卓にはペットボトルの水とお茶のセット、鍋の具材が先に置かれていました。広縁の隅の冷蔵庫は中身が空で自由に使え、クローゼットには温泉用の風呂セットが入っています。
広縁の窓の外には球磨川がゆったり流れていて、翌朝は釣りをしている人の姿も見えました。天井が高く、欄間や建具のひとつひとつに年月の味わいがあります。人吉旅館は予約時に部屋の指定ができないので、どの部屋になるかは当日のお楽しみです。

風呂 — 4種類すべてに入った、とろみのある源泉かけ流し
湯はナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉、pH8.16の弱アルカリ性で、100%源泉かけ流し。浸かると肌にとろみを感じ、湯上がりはしっとりします。宿はこれを「美人の湯」と呼んでいて、その通りの湯でした。飲泉もでき、飲んでみると鉄分を感じる味。胃の働きを整えるとされていますが、効果のほどは分かりません。
風呂は4種類あります。
- 露天風呂1か所 — 宿泊者専用で、15時半〜22時と6時〜9時。私たちは到着後、最初にここに入りました。夜は静まり返っています
- 家族湯2か所 — 貸切で、予約はできず、空いていれば1時間を目安に使えます
- 大浴場2か所 — ひとつは深さ80cmの湯船に木のベンチを置いた造り、もうひとつは岩風呂風の広い浴室。時間帯で男女が入れ替わり、宿泊者は24時間入れます。岩風呂風のほうには夕食後と翌朝に入りました
脱衣所には鍵付きのロッカーがあり、貴重品を預けておけます。風呂へ向かう途中には籐の椅子を置いた待合スペースと自販機、廊下には周辺の観光地の写真と温泉の泉質の掲示があります。浴室内は撮影していないので写真はありません。
夕食 — 鮎の塩焼きと球磨の黒豚のSL鍋。ボリュームはかなり多い
夕食はスタンダード会席プランの会席で、人吉・球磨の食材を使った献立です。席に着くと前菜が並び、鍋と炊き込みご飯の釜がすでに用意されていました。
- 前菜 — 山雲丹豆腐、鱧五色あられ、粽、茗荷の甘酢漬け、海老芝煮、からし蓮根、うすい豆しんじょう、鱧のみぞれ煮
- 温物 — 南瓜饅頭に鶏そぼろを詰めて湯葉あんかけ。優しい甘さと出汁の香りでほっとする味
- 焼物 — 球磨川の鮎の塩焼き。身がしっかり詰まっていて、添えられた緑色のたれをときどき使いながら食べました
- 鍋物 — 蒸気機関車の絵が入ったタジン鍋(宿は「SL鍋」と呼んでいます)で、球磨の黒豚ロースの茶しゃぶ。「幻のきのこ」と呼ばれるたもぎ茸が大きくて存在感がありました
- 凌ぎ — 鶏・椎茸・ベビーホタテ・慈姑の入った茶碗蒸し
- 御飯 — 釜で炊き上がった栗ときのこの炊き込みご飯に、人吉球磨の郷土料理・つぼん汁と香の物
- 甘味 — 林檎のソルベと球磨栗のモンブラン最中仕立て
お酒は「その土地のものを」と、阿蘇の酒「れいざん」(熊本県高森町・山村酒造)を1本。到着後は運転しないので、地元の酒を安心して楽しめます。品数が多く、炊き込みご飯が食べきれなかったので、おにぎりにしてもらって部屋に持ち帰りました。昼を軽めにしてお腹を空かせて臨んでください。





朝食 — 鮎の干物が入った木箱
朝食は木箱に小鉢を詰めた和朝食で、炭火であぶった鮎の干物が入っています。鮎の干物を食べるのはたぶん初めてでしたが、身が詰まっていて美味しかったです。生玉子には卵かけご飯用の醤油が添えられていて、卵かけご飯にしました。固形燃料で温める豆乳豆腐もあります。ご飯と飲みものはビュッフェ形式で、女将手づくりのキムチと馬肉カレーが置かれていました。馬肉カレーを少しいただきましたが、これも美味しかったです。

チェックアウト前後 — 中庭と足湯、廊下の資料コーナー
朝は人のいない館内を2階まで歩きました。廊下の壁には人吉旅館の歴史を伝える資料コーナーがあり、古い写真とSL人吉の写真が並んでいます。チェックアウト後には中庭を見学させてもらいました。池と祠があり、庭を囲むように建物が並んでいて、廊下側から見ても庭側から見ても絵になります。玄関脇には誰でも使える足湯と、宿の歴史の説明書きもありました。
人吉は令和2年7月の豪雨で球磨川が氾濫し、この宿も1階の天井まで浸水しました。再建して営業している宿に泊まることが、街を応援することにもつながります。私たちはこのあと由布院へ向かい、ゆふいん山水館に泊まりました。
まとめ — こんな人におすすめ
- 湯で宿を選ぶ人。 とろみのある源泉かけ流しを、大浴場・露天・家族湯の4種類で楽しめます。宿泊者は大浴場に24時間入れます
- 古い木造建築が好きな人。 昭和9年の数寄屋造りが創業時のまま残り、廊下のガラス窓や高い天井、ステンドグラスにその時代の空気があります
- 鮎の季節に九州を回る人。 6月から秋にかけて、球磨川の鮎が献立に並びます。私たちは9月で、夕食に塩焼き、朝食に干物が出ました
ふるさと納税で泊まるなら
人吉市のふるさと納税に、人吉旅館の平日限定・1泊2食付きペア宿泊券(寄付7万4,000円)があります。利用不可日・部屋指定不可などの条件と申し込み先は、九州のふるさと納税ガイドにまとめています。


